社会保険の加入条件とは?
企業側・従業員側のメリット・デメリットも解説     

社会保険の加入条件とは?
企業側・従業員側のメリット・デメリットも解説     

社会保険は勤務先を通して加入する公的保険のことです。しかし、全ての企業で全ての労働者が加入するわけではありません。

本記事では、社会保険の加入条件について、企業と労働者に分けて解説します。また、社会保険に加入するメリットとデメリット、未加入でいるリスクについても解説するので、ぜひご覧ください。

社会保険とは?

社会保険とは、生活に支障をもたらす出来事が生じた時に、一定の給付を受けて生活を安定させる制度です。

加入していることで、病気やケガをした時、長期療養が必要になった時、高齢になり今までと同程度の収入が見込めなくなった時など、様々な状況に応じて給付を受けられます。

社会保険は条件に当てはまる時は強制加入となるため、原則として、企業や被保険者自身が加入するかどうか選択することはできません。なお、社会保険には、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労働者災害補償保険(労災保険)の5つがあります。

このうち、雇用保険と労災保険はまとめて「労働保険」とも呼ばれるため、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つのみをさして「社会保険」と呼ぶこともあります。

健康保険

健康保険とは、病気やケガによって生じる経済的な負担をお互いで支え合うことを目的とした保険です。

加入すると「資格情報のお知らせ」や「資格確認書」が発行され、医療機関で医療費を支払う際に「マイナ保険証」(健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカード)または「資格確認書」を提示すると健康保険が適用され、医療費の負担を抑えられます。

原則として、69歳までの被保険者は医療費の3割のみを負担します。

健康保険は、全国健康保険協会(協会けんぽ)、健康保険組合、共済組合、国民健康保険の4つに大別できます。

健康保険の種類

主な加入者

全国健康保険協会(協会けんぽ)

中小企業で働く方、その家族

健康保険組合

大企業で働く方、その家族

共済組合

公務員として働く方、その家族

国民健康保険

自営業者など


なお、国民健康保険は被保険者が保険料を全額支払いますが、それ以外の健康保険の保険料は、被保険者と事業主で折半して支払います。

介護保険

介護保険とは、介護サービスを受けるための保険制度です。40歳以上が被保険者となり、保険料を納付します。

ただし、健康保険と同じく企業や公的機関で勤務している方は、65歳になるまでは保険料を事業主と折半して支払うため、保険料の負担が軽減されます。

対象となる医療機関を受診すればいつでも適用される健康保険とは異なり、介護保険は被保険者が以下のいずれかの条件を満たし、介護サービスを利用した時のみ適用されます。

介護保険を利用できる方

  • 要介護・要支援の認定を受けた65歳以上の方
  • 特定疾病により要介護・要支援の認定を受けた40歳以上64歳以下の方


※出典:厚生労働省「介護保険とは」

厚生年金保険

厚生年金保険とは、会社員や公務員が加入する公的年金制度です。国民年金に上乗せする保険のため、条件を満たした時に受け取れる年金額が増えます。

例えば、国民年金にだけ加入している場合、老齢年金を受給する年齢になると月々約6.9万円の基礎年金を受け取ります。しかし、厚生年金保険に加入していると、老齢基礎年金に老齢厚生年金が加算されるため、受給額が月々平均約15.2万円に増額します。

社会保険に加入する条件

社会保険に加入するのは、企業側と労働者側がそれぞれ条件を満たす時のみです。

まず企業側の条件は、51人以上の従業員を抱えている事業所であることです。この条件を満たした事業所に勤務する従業員のうち、以下の全てに当てはまる従業員は、正社員かどうかに関わらず社会保険に加入させる必要があります。

社会保険に加入する従業員が満たすべき条件

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が月額88,000円以上
  • 2ヶ月を超えて働く予定がある
  • 学生ではない(休学中、通信制、定時制は加入対象)


※出典:厚生労働省「社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について」

社会保険のメリット

労働者が社会保険に加入することには、多くのメリットがあります。また、従業員を社会保険に加入させることで、企業側も多くのメリットを得られます。それぞれのメリットを説明します。
 

企業側のメリット

従業員を社会保険に加入させることで、福利厚生を充実できます。社会的信用も高まるので、優秀な人材を集めやすくなり、企業の発展につながります。

また、国や自治体などの補助金制度や助成金制度、融資制度に申請する際には、従業員を社会保険に加入させているかについて確認されることがあります。条件を満たす従業員全てを加入させているなら、各制度を利用できる可能性が高まる点もメリットです。

働きやすい労働環境を構築することは、人材確保だけでなく企業発展においても重要な要素です。条件を満たす従業員を社会保険に加入させるのはもちろんのこと、ワークライフバランスが取れる仕組みをつくることや、業務効率化を図り時間外労働時間を削減することなども欠かせません。

従業員側のメリット

従業員のメリットは、本来支払うべき保険料の半分のみを支払うことになり、負担が軽減されることです。将来受給できる年金が増え、老後や長期療養時の不安軽減につながるでしょう。

例えば、勤務先を通して健康保険に加入していることで、傷病手当金の適用を受けられます。傷病手当金とは、業務外の病気やケガで休んだ場合に適用される給付金制度です。休業4日目以降、通算して最大1年6ヶ月の間、標準報酬日額平均額の2/3を上限として支給されます※1

また、出産手当金の適用を受けられる点も、社会保険に加入するメリットです。出産のために会社を休んだ場合、出産日以前42日から出産日以後56日までの期間、標準報酬日額平均額の2/3を上限として支給されます※2

国民年金に加えて厚生年金を受け取れる点もメリットです。一定の条件を満たした時には、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金、障害基礎年金に加えて障害厚生年金、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金の受給が可能です。

※1出典:全国健康保険協会 協会けんぽ「傷病手当金」
※2出典:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産手当金について」

社会保険のデメリット

社会保険に加入することには多大なメリットがありますが、いくつか注意すべき点もあります。デメリットになり得るポイントを、企業側と従業員側に分けて紹介します。
 

企業側のデメリット

社会保険料の半分は雇用主が支払います。企業側にとっては支払う費用が増えることになり、負担増につながります。

ただし、社会保険料として支払った費用については、全額損金算入が可能です。法人税の課税対象額を減らせるため、社会保険料を支払うことは必ずしもデメリットばかりとはいえません。

従業員側のデメリット

社会保険料の半分は労働者が支払うため、手取りが減ります。

とくに、今まで配偶者の扶養に入っていた方は、健康保険料や年金保険料といった社会保険料の支払いが免除されていたため、新たに社会保険に加入する際は社会保険料の金額について理解しておきましょう。

社会保険未加入の場合に企業が被るリスク

前述のとおり、社会保険は条件を満たした企業が、条件を満たした従業員に加入させる義務を負います。

条件を満たしているにもかかわらず、当該従業員を社会保険に加入させていない企業は、次のリスクを被る恐れがあります。

社会保険未加入時の企業側のリスク

  • 補助金や助成金、金融機関の融資を受けにくくなる
  • 6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金を科せられることがある
  • 過去最大2年間にさかのぼって保険料を請求される


それぞれのリスクについて解説します。
 

補助金や助成金、金融機関の融資を受けにくくなる

補助金や助成金の申請をする際に、社会保険の加入状況について確認されることがあります。また、銀行などの民間金融機関の融資を受ける際にも、社会保険の加入状況を問われることは少なくありません。

そのため、加入条件を満たしているにもかかわらず未加入でいることで、補助金や助成金、金融機関の融資を受けにくくなるリスクがあります。

6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金を科せられることがある

条件を満たしている全ての従業員を社会保険に加入させることは、事業者が果たすべき義務のひとつです。

万が一、条件を満たしているにもかかわらず繰り返し行政指導を行っても加入してない時や虚偽の申告を行うなど悪質な場合は、6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金を科せられることがあります。

過去にさかのぼって保険料を請求される

条件を満たす従業員に対して、社会保険に加入させていない場合は、過去最大2年間にさかのぼって保険料を請求される可能性があります。

また、加入させていなかった期間に応じて延滞金も発生するため注意が必要です。

社会保険に関するよくある質問

社会保険の加入条件について、よくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にして、社会保険の適正加入を実現してください。
 

週によって労働時間が20時間を超える時と超えない時がある場合はどうなる?

社会保険の加入条件を満たしているかどうかは、実際に労働時間が毎週20時間以上であるかではなく、就業規則や労働契約書で規定されている労働時間が週20時間以上かで判断します。

そのため、実際には週の労働時間が20時間未満であっても、規定の労働時間が20時間以上なら「週の所定労働時間が20時間以上」とみなします。

週20時間を超えた場合の加入手続きはいつまでにするべき?

2ヶ月連続で労働時間が週20時間以上となり、翌月以降も週あたりの労働時間が20時間以上であると見込まれる時は、3ヶ月目から当該従業員を社会保険に加入させる手続きを実施することが必要です。

ただし、社会保険の加入条件は週の所定労働時間だけではありません。給与の額や雇用期間の見込みなどの条件も確認してから、加入手続きを実施しましょう。

「キャリアアップ助成金」の概要や対象は?

キャリアアップ助成金は、以下の条件を全て満たす事業主を対象とする助成金制度です。

キャリアアップ助成金申請の対象となる事業主の条件

  • 雇用保険適用事務所の事業主
  • キャリアアップ管理者を配置
  • キャリアアップ計画を作成、認定を受けている
  • 賃金算出方法が明らか、かつ説明できる
  • キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組む


条件を満たしている場合は、労働者1人あたり最大80万円(正社員化コース。中小企業の場合。大企業は60万円)を受給できます。


※出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)」

効率的な労務管理について詳しく知りたい方はHR EXPOへ

社会保険の加入は、条件を満たす全ての企業・労働者の義務です。しかし、加入条件が多いだけでなく、労働者を取り巻く状況も変化するため、複雑に感じるかもしれません。

労務管理についての理解を深めるためにも、総務や人事、経営者が一堂に会する展示会をチェックしてみてはいかがでしょうか。

RX Japanが主催する展示会「総務・人事・経理Week」の「HR EXPO」では、総務・人事・経理に関する最新の情報を得られます。煩雑な労務管理を効率化できる製品やサービスを実際に見ることができるため、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

総務・人事・経理のサービスを提供している企業は、出展も可能です。ぜひ新規顧客開拓の機会としても活用してください。

■【東京】総務・人事・経理Week
2025年6月25日(水)~27日(金) 東京ビッグサイト

■【名古屋】総務・人事・経理Week
2025年7月23日(水)~25日(金) ポートメッセなごや

■【東京】総務・人事・経理Week
2025年9月10日(水)~12日(金) 幕張メッセ

■【関西】総務・人事・経理Week
2025年11月19日(水)~21日(金) インテックス大阪

条件を満たす事業所は必ず社会保険に加入しよう

従業員が51人以上の事業所は、所定労働時間が週20時間以上かつ所定内賃金が月額88,000円以上で、2ヶ月を超えて働く予定がある学生以外の従業員を社会保険に加入させる義務を負います。

条件を満たしているにもかかわらず、加入させていない場合は、公的な補助金制度や助成金制度に申請できないばかりか、民間金融機関からの融資も受けられない恐れがあるため注意が必要です。

また、保険料や延滞税の一括納付を求められたり、悪質な場合は罰金や懲役が科せられたりする可能性もあります。

企業に対して求められる義務を果たすためにも、社会保険や労働環境についての理解を深めておくことが大切です。企業を取り巻く状況は常に変化しています。最新の情報を入手するためにも、総務・人事・経理の展示会に入場してみてはいかがでしょうか。

RX Japanが主催する展示会「総務・人事・経理Week」の「HR EXPO」は、総務・人事・経理に関する最新の情報が得られるイベントです。また、総務・人事・経理のサービスを提供している企業なら、出展する側としての入場も可能です。ぜひお問合せください。

「HR EXPO」詳細はこちら


■監修者情報

羽場 康高(はば やすたか)
社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。

HP:https://www.lifestaff.net/