【2025年4月施行】
育児介護休業法の改正点と企業が取るべき対応とは?
【2025年4月施行】
育児介護休業法の改正点と
企業が取るべき対応とは?
2025年4月1日より、改正された「育児・介護休業法」が順次施行されます。
育児・介護を行う労働者に対する措置、子の看護休暇や介護休暇の対象範囲などに関して様々な変更点があり、企業の実務にも大きく影響するため、改正内容を正しく理解することが重要です。
本記事では、2025年4月1日から段階的に施行される「育児・介護休業法」の改正点や目的をわかりやすく解説します。施行までに企業が行うべきことも解説するので、計画を立てて早めに対応しましょう。
育児・介護休業法とは?
育児・介護休業法とは、労働者の仕事と子育て・介護の両立支援を行うための法律です。正式には、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。
育児・介護休業や育児・介護休暇、事業主が講ずべき措置などを定め、育児・介護を行う労働者の雇用の継続、再就職支援の促進を図ることを目的としています。
2025年の「育児・介護休業法改正」の目的
2024年5月に「育児・介護休業法」が改正されました。公布日、施行日はそれぞれ以下のとおりです。
公布日 |
2024年5月31日 |
施行日 |
2025年4月1日(一部2025年10月1日) |
改正の主な目的は、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるように、支援措置を拡充・強化することです。その背景として、「2025年問題」が挙げられます。
2025年問題とは、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)の超高齢化社会を迎えることで生じる様々な問題です。医療や介護の需要がますます高まる一方で、少子高齢化は止まらず、育児・介護と仕事の両立は喫緊の課題となっています。
そこで、仕事と育児・介護の両立支援を拡充・強化し、育児や介護による離職を減らすために、今回の改正が実施されました。
2025年問題についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶関連記事:2025年問題とは?影響範囲や政府の対応策、企業に求められる改革に関して解説
【育児】2025年「育児・介護休業法」の改正点
2025年4月から施行される「育児・介護休業法」のうち、育児に関する改正点は以下のとおりです※。
① 子の看護休暇の見直しの義務化
② 残業免除の対象拡大の義務化
③ テレワークの推進
④ 育児休業取得状況の公表義務の拡大(300人超の企業)
⑤ 柔軟な働き方を実現するための措置等の義務化
⑥ 個別の意向聴取・配慮の義務化
上記のうち、①~④は2025年4月1日、⑤⑥は2025年10月1日に施行されます。
※出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
①子の看護休暇の拡大
子どもの年齢に応じて柔軟な働き方ができるように、子の看護休暇の対象範囲(取得事由や子どもの範囲)が拡大されました。施行後は、学級閉鎖や入学式・卒園式なども子の看護休暇の対象となるため、より幅広い労働者が子の看護休暇を取得しやすくなります。
改正内容は以下のとおりです。
項目 |
改正前(~2025年3月31日) |
改正後(2025年4月1日~) |
対象となる子の範囲 |
小学校就学の始期に達するまで |
小学校3年生修了まで |
取得事由 |
①病気・けが ②予防接種・健康診断 |
①病気・けが ②予防接種・健康診断 ③感染症に伴う学級閉鎖など ④入園(入学)式、卒園式 |
労使協定による除外規定 |
除外できる労働者 ①所定労働日数が週2日以下 ②継続雇用期間6ヶ月未満 |
除外できる労働者 ①所定労働日数が週2日以下 ②を撤廃 |
名称 |
子の看護休暇 |
子の看護等休暇 |
なお、年5日(子が2人以上の場合は10日)の取得可能日数に変更はありません。
②残業免除の対象拡大
残業免除(所定外労働の制限)の対象者は以下のとおり拡大されます。
|
改正前(~2025年3月31日) |
改正後(2025年4月1日~) |
残業免除の対象者 |
3歳未満の子を養育する労働者 |
小学校就学前の子を養育する労働者 |
労働者が請求すれば、子どもが小学校に就学するまで残業が免除されるため、仕事と育児を両立しやすくなります。
③テレワークの推進
柔軟な働き方を支援するために、テレワークを推進するための改正が行われました。改正点は以下の2つです。
改正内容 |
概要 |
短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワークを追加 |
短時間勤務制度の代替措置 ①育児休業に関する制度に準ずる措置 ② 始業時刻の変更など ③ テレワーク(追加) |
育児のためのテレワーク導入 |
事業主に対し、3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できる措置を講じることを努力義務化 |
本改正によって、3歳未満の子を養育する労働者が在宅勤務を選択しやすくなることが期待されます。
④育児休業取得状況の公表義務の拡大
「男性労働者の育児休業等の取得状況」を公表しなければならない企業が拡大されました。
|
改正前(~2025年3月31日) |
改正後(2025年4月1日~) |
対象企業 |
従業員1,000人超の企業 |
従業員数が300人超の企業 |
対象企業は、一般の方が閲覧できる方法(インターネットなど)で年1回、男性労働者の育児休業等の取得割合(または育児休業等と育児目的休暇の取得割合)を公表しなければなりません。
⑤柔軟な働き方を実現するための措置
今回の改正では、子ども(3歳~小学校就学前)を養育する労働者に対し、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが事業主に義務付けられました。
具体的には、過半数組合などからの意見聴取の機会を設けた上で、以下の5つから2つ以上の措置を講じなければなりません。
① 始業時刻などの変更
② テレワークなど(月10日以上)※
③ 保育施設の設置運営など
④ 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(年10日以上)※
⑤ 短時間勤務制度
労働者は、事業主が講じた措置のなかからひとつを選択できます。
また、事業主が講じた措置に関して、労働者に個別で周知・意向の確認を行うことも義務付けられました。周知・意向の確認は、面談(オンライン面談も可)または書面交付(労働者が希望した場合はFAX・電子メール等(記録を出力等して書面作成可能なものに限りLINEやFacebook等のSNSメッセージ機能も含む)も可)によって行う必要があります。
※②④は時間単位で取得できるようにする必要があります。
⑥個別の意向聴取・配慮
仕事・育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられました。
事業主は、以下の2つの時期に、上記と同様の方法により面談や書面などによって労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。
① 労働者が本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た時
② 労働者の子どもが3歳の誕生日の1ヶ月前までの1年間(1歳11ヶ月に達する日の翌々日~2歳11ヶ月に達する日の翌日)
また、聴取した意向への配慮も義務化されました。例えば、以下の配慮が考えられます。
● 勤務時間帯や勤務地を配慮する
● 両立支援制度の利用期間などを見直す
● 業務量を調整する
【介護】2025年「育児・介護休業法」の改正点
2025年4月から施行される「育児・介護休業法」のうち、介護に関する改正点は以下のとおりです※。
① 介護休暇の取得要件の緩和
② 雇用環境整備の義務化
③ 個別の周知・意向確認の義務化
④ テレワークの推進
いずれも2025年4月1日に施行されます。
※出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
①介護休暇の取得要件の緩和
介護休暇を取得するための要件が緩和され、対象者が拡大されました。
|
改正前(~2025年3月31日) |
改正後(2025年4月1日~) |
除外できる労働者 |
① 所定労働日数が週2日以下 ② 継続雇用期間6ヶ月未満 |
① 所定労働日数が週2日以下 ②を撤廃 |
改正後は、労使協定に基づいて「勤続6ヶ月未満の労働者」を除外できなくなるため、働きはじめたばかりの労働者も介護休暇を取得しやすくなることが期待されます。
②介護離職を防止するための雇用環境整備の義務化
介護離職を防止するための雇用環境の整備(介護休暇や残業等の制限・短縮等)が、事業主に義務付けられました。事業主は、以下の4つのうちいずれかの措置を講じなければなりません。(複数の措置を講じることが望ましい)
● 介護休業・介護両立支援制度などに関する研修の実施
● 介護休業・介護両立支援制度などに関する相談体制の整備(相談窓口設置)
● 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度などの利用事例の収集・提供
● 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度などの利用促進に関する方針の周知
③個別の周知・意向確認の義務化
事業主は、介護に直面したことを申し出た労働者に対し、介護休業や両立支援制度の内容や取得申出先などの周知や、意向確認を個別に行わなければなりません。
また、介護に直面する前の早い段階(40歳など)で情報提供することも義務付けられました。(併せて介護保険制度について周知することが望ましい)
④テレワークの推進
事業主に対し、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できる措置を講じることが努力義務化されました。
これにより、労働者が仕事と介護を両立しやすくなることが期待されます。
2025年「育児・介護休業法」施行日までに
企業が取るべき対応
2025年「育児・介護休業法」
施行日までに
企業が取るべき対応
企業は、育児・介護休業法の施行日までに就業規則や業務体制の見直し、従業員への周知などの対応を行わなければなりません。新たな措置の創設などにも対応する必要があるため、一定の準備期間が必要です。
取るべき対応を理解し、余裕をもって準備しましょう。この章では、企業が対応すべき内容を施行日別に解説します。
2025年4月1日までに取るべき対応
企業は、2025年4月1日から施行される改正点に対して、企業が取るべき主な対応は以下のとおりです※。
企業が取るべき対応 |
内容 |
就業規則の改定 |
改定が必要となる主な項目 ● 子の看護等休暇の見直し(義務) ● 所定外労働の制限の対象拡大(義務) ● 短時間勤務制度(テレワークを選択する場合) ● テレワーク導入(努力義務) |
労使協定の再締結 |
● 子の看護休暇や介護休暇に関して勤続6ヶ月未満の労働者を除外としている場合は再締結が必要 |
育児休業取得状況公表の準備 |
● 新たに対象となる企業(従業員が300人超1,000人以下の企業)は取得状況の把握や公表準備が必要 |
環境の整備 |
● テレワーク環境の整備 ● 介護離職防止のための雇用環境の整備 |
労働者への周知・意向聴取の準備 |
● 意向確認方法の検討 ● 周知するための書類や意向確認書の準備など |
上記に加えて、育児・介護休業の取得が進むことを前提とした業務体制の見直しも必要です。
※出典:厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」
2025年10月1日までに取るべき対応
2025年10月1日から施行される改正点に対して、企業が取るべき主な対応は以下のとおりです※。
企業が取るべき対応 |
内容 |
就業規則の改定 |
「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」に関する見直し ※過半数組合などから意見を聴取する機会が必要 |
労働者への周知・意向聴取 |
● 意向確認方法の検討 ● 周知するための書類・意向確認書の準備など |
厚生労働省のホームページに規定例や書式が掲載されているので、活用すると良いでしょう。
※出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
法令に違反した場合のリスク
育児・介護休業法は、規模や業種を問わず、全ての事業主に適用される法律です。法令に違反した場合、厚生労働大臣から報告を求められたり、助言・指導・勧告を受けたりする可能性があります。
報告の求めに応じない、または虚偽の報告を行った場合は最大20万円の過料に処され、勧告にも従わなければ、その旨が公表されます。
企業名が公表されると社会的信用が大きく低下し、取引先との関係が悪化する、売上が減少するなどの影響が生じかねません。
こうした事態を防ぐためにも、法改正への対応漏れがないよう計画的に準備し、法令遵守を徹底することが求められます。
法改正に対応するために人事管理体制の見直しを
改正によって育児・介護休業法に関する制度を利用する労働者が増えると、実務の負担が重くなることが予想されます。法改正に対して迅速に対応し、法令遵守を徹底するためには、人事管理システムやプロセスの見直しが重要です。
RX Japanが主催する展示会「総務・人事・経理Week」は、人事管理システムや教育・研修、採用支援をはじめ、福利厚生や働き方改革、従業員の健康管理など幅広いサービス・ソリューションを一度に比較検討できる絶好の場です。
人事管理体制の見直しや業務効率化を図りたい方や、リモートワークの導入など多様な働き方ができる環境を構築したいと考えている方は、ぜひご来場ください。
また、出展をご検討の方には、出展検討用パンフレットなどをお送りしています。「総務・人事・経理Week」は、全国の人事・総務・経営者と直接商談でき、新規販路開拓・売上拡大を図れる展示会です。ぜひ出展をご検討ください。
育児・介護休業法改正に向けて早期対応を
2025年4月1日から、改正された育児・介護休業法が施行されます。主な改正点として、子の看護休暇の見直しや育児期の柔軟な働き方を実現するための措置、介護離職を防止するための雇用環境整備の義務化などが挙げられます。
企業の実務にも大きく影響するため、改正内容を正しく理解し、2025年4月1日に向けて就業規則の見直し・労使協定の再締結などの対応を進めましょう。
人事管理体制を見直したい方は、総務や人事に関する支援サービスが集結する展示会「総務・人事・経理Week」にご来場ください。出展をご検討の方も以下のページから詳細をご確認いただけます。
「総務・人事・経理Week」詳細はこちら
■監修者情報
羽場 康高(はば やすたか)
社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。